就職活動の第一歩は会社訪問、というのが日本.厳しいとは言え、ほとんどの人がどこかに収まることができる我々からすると、今深刻な問題になっているイギリスの就職難は遠い世界のことに思える。 悩めるイギリスからのレポート イギリスの夏は日中でもジャケットが欲しいくらいの涼しさ、去年の夏のように連日雨が降ることもなく、快適な日々を過している。 経済成長率は伸び悩み、国際収支は大幅な赤字、イギリス経済はもう立ち直らないのではないかなどと、あちこちで言われているが、実際、英国に滞在していると、そんな所はちっとも見えてこない。朝、出勤前に公園まで犬を散歩につれて行くサラリーマン、活気のあるロンドンの通り、BBC放送は連日、Sarah FergusonとPrince Andtewのroyal coupleにづいて報じていた。 もし具体的に実感したことを挙げるとするなら、ポンドの暴落だろう。去年は1ポンド350円だったのが、今年は240円までに下がっている。去年3万5千円した皮のジャケットが、今年は2万5千円で買えるという訳。こちらで100ポンドあれば、かなりのものが手に入る。ただでさえ物価が安い上に、7月、8月はどこもセールだからだ。 ”高い円を持って外国製品を買いましょうかなんて中曽根さんのキャンペーンではないが、つい、そんなことも言ってみたくなる。”円安で経営が危くなっている日本の輸出企業のことも考えなさい”と、どこからかお叱りの声が聞こえてきそうだが。 しかし、先日、何気なく通りかかったJob Centre(職業安定所)で、イギリスの現実を見てしまった気がする。 ■絶対的に数が不足している 職業安定所などというと、失業者達が出入りする冷たい感じの建物を想像してしまうのは私だけだろうか。だいたい、日本のように終身雇用制の国では、失業すること自体が特別な出来事であるのに対して、イギリスではそれが当り前になっている。なにしろ働きたい人達の、1割以上が失業者なのだから。 Job Centreは、ファッションの店や銀行、みやげ物店などのあるbusy streetにある。(何カ所かのJob Centreを訪ねたが、その点ではどこも共通)。ウインドウに、数字の書き込まれた紙がべタベタ張ってあるので、ちらっと見ただけでは、不動産屋か旅行会社のように見える。でも、それにしては人の出入りが多い。改めて注意して、ウインドゥに書かれたことを読んでみる。 自分の目の錯覚ではないかと思うほど、恐るべき数字が書かれている。約6万人の失業者に対して、職業は約5,500しかないのだ。 ドアを押して、中に入ってみる。かなり広い。右の方にはカウンターがあって、何人もの人が相談している。左の壁には、職業別にずらっと雇用条件が書き出されている。圧倒的に若い人が多いが、中年の人もちらほら。男女比は同じくらい。皆、きちんとした装いをしている。ふだんはパンクファッションの若者も、この時ばかりは遠慮するとみえる。 ■たかがいもの皮むきなのに (インタビュー) Q:どんな仕事を捜していらっしゃるの? A:出来ることなら何でもしたいけれど、仲々条件に合うのがなくて。 (彼が見ているのは“Assistant chef”) Q:これも条件が合いませんか? Assistant chef(コック見習い) District-Central Wage-£2 per hour(1時間に480円位) hours-Mon.-Fri.8-4 Details prdparing food & replenishment of daily vegetable dishes hot & cold, SWeets etc. (要するに、じゃがいもの皮むき程度、これなら私にも出来そうと思っていたら) must have C & G とあった。 Q:C&Gって何のことですか? A:City & Guilds、つまり4年以上の経験が必要だということ。いつもこれなんだ。ただのアシスタントですよ、4年の経験がなくたって出来る? (狭き門だから条件がきびしくなるのはどこも同じ、一寸気の毒) Q:きっと何かみつかると思うわ、気を落さないで! 彼の名はSteven Jewell(25歳)、清潔な感じの好青年である。16歳から24歳までジョッキー(馬の)をしていたが、今は太ったのでやめたという。やめる時は週に80ポンドもらっていたけれど、今は政府から27ポンド支給されるだけという。彼の場合は両親と住んでいるが、アパートを借りる場合は45ポンドが別に支給される。(council homeと呼ばれる公営住宅に住む人が多い) 彼の2人のお兄さんも失華中、兄のKivenはガソリンスタンドに勤めていたが、会社が破産して失職、奥さんと子供がいるので政府から週に40ポンド(9,600円)もらっているという。どんな生活をしているのか想像に余りある。 ■高卒で20人中2人が就職 Building 47 per week.4.50 per hour と書かれているのを見つめている年配の女性と少年。 (インタビュー) Q:お母さんですか? A:ええ、息子の仕事のことが心配で一緒に来ましたの。 Q:君はいくつ? A:17歳。16歳で学校を出て1年間はYTS (a government programでschool leaversのために計画されたもの)で働いたんですが、それも1年間しか出来ないから、その後はtemporary jobのくり返し。 早く安定した仕事を見つけたいと思っているんだけど。 Q:そのコースは何人くらいの人達がいたの? A:20人。でも、その中で仕事を見つけたのは2人だけ。 Q:うーん。きびしいですねー。 Paulと彼のお母さんは、その後も熱心に壁を見つめていたが、いい仕事があったかどうか。17歳と言えば、まだ高校生。日本車ら高校の就職係の先生が仕事を捜してくれる。こんな心配までしなければならないなんて、ついつい、こちらの母親に同情したくなる。 ■苦悩するイギリスの行方 大きな書類に細かい字を書きこんでいるスーツの青年。とても失業者には見えないが。 (インタビュー) Q:仕事を搜していらっしゃるの? A:ええ。今はPromotional Companyのマネージャーをしているけれど、redundantのために8月31日で仕事がなくなってしまう。その前に、別の会社の仕事を決めておかないと。 Q:やはり、マネージャーですか? A:そうですね。月給も今と.同じ750ポンドくらい(180,000円)は欲しいなー。 彼が750ポンドと言ったら、まわりの人が一斉に振りむいた。よほどの高額なのだろう。 大学を出た女性が、Nursingの仕事を見つけ、「これで1カ月270ポンド(64,800円)もらえる。少ないけれど、何もないより良いわ」などと言っているのを聞くと、何だか情けなくなる。 Steven は言う。“Mrs.Thacher doesn't spend enough money for the unemployed apd the poor,but she spends about 26 million a year on weapons." Job Centreのスーパーパイザー、Mr. Harrison にうかがったところでは、イギリスの失業率は11.5%、北に行くほど悪くなるという。 イギリスが過去の栄光を取り戻す時が、再び訪れるのだろうか? |