「難しいぞ!「男言葉」「女言葉」

2001年7月18日 朝日新聞に掲載された記事です。


留学生泣かせ 漢字より、敬語より・・・・
「難しいぞ!「男言葉」「女言葉」

日本語ジェンダー学会フォーラム「日本語の本質や価値観」研究

 「男盛り」は働き盛りを指すのに、「女盛り」はなぜ容姿のピークを意味するのか-。日本語にひそむジェンダー(社会的・文化的性)表現を研究しようと、学者やビジネスマン、留学生らが「日本静ジェンダー学会」を結成し、今月初めに横浜国立大でフォーラムを開いた。参加した各国の留学生たちは母語の表現と比較しつつ、「悪妻」 「玉の輿」といった言葉との格闘ぶりを語った。
(中島鉄郎)

 「おい、どこに行っていたんだ」と女子学生ジェーンが聞くと、「キャフェテリアが込んでいてパンが買えなかったの」と、大柄な青年ジョニーが答える-。
 同大留学生センター教授で(日本帝ジェンダー学会会長の佐々木瑞枝さんが聞いた留学生同士の会話だ。「おい」「~だ」などのいわゆる「男言葉」と、「~の」という「女言葉」が、留学生にそれと意識されずに使われているので、おかしく聞こえてしまう。
 佐々木さんは言う。
 「外国人の日本話学習者には、男言葉、女言葉の使い分けは、敬語や漢字よりも難しいことがある。しかも現代ではその区別が崩れ、微妙な人間関係で変わってくるのでより複雑です。でも、なぜ男性表現・女性表現がこれほどあるのか、留学生たちに教える方も不思議だったのです」
 日本語のジェンダー表現に興味を持つ有志たちが勉強会を続け、その成果を佐々木さんが昨年春、『女と男の日本語辞典』(東京堂出版・現在は上巻のみ刊行)という本にまとめた。
 新聞や雑誌、小説などから130話を拾い上げ、性質別に15に分けた。たとえば「結婚に伴う男性側の視点から生まれた表現」(後家・悪妻、「性別役割分業を前提に生まれた言葉」 (永久就職・縁遠い)など。
 この仕事を契機に、「日本帝ジェンダー学会」(会員約200人)が結成された。佐々木さんは「表現にある男女差別を糾弾するのが目的ではなく、研究を通じて日本語の本質や価値観に触れたい」と話す。
 また、学会理事になった同大留学生センター教授の門倉正美さんは「ジェンダー表現の研究と言うと、女性の視点からが多くなるが、男性中心的な見方への異議申し立ての学問である女性学の進歩ともに、それに刺激を受けた『男性学』も発展してきている。そんな男性学の立場からも研究していきたい」と言う。
 フォーラムでは、パネリストの留学生たちが、母語のジェンダー表現と比較して報告した。
 「セネガルでは『悪妻』だけじゃなく『悪夫』もあります。『悪妻』は料理ができないか、子供の世話ができない妻のこと。『悪夫』は給料を家に入れず、家族の世話をしない人のこと」 (セネガルの留学生ヤシン・ガイさん)
、「日本では『主人』『家内』と、夫婦がそれぞれを呼び合う言葉がありますが、ブルガリアでは妻は夫のことを『私の男』と言い、夫は妻のことを『私の女』という言葉で表現します」 (ブル
ガリアの留学生ヤボル・コエフさん)
 佐々木さんは、「『悪妻』や『適齢期』などに対応する言葉が、その国の文化・慣習と言帯形式
によって、あったりなかったりすること自体が面白い。今後は日本の方言におけるジェンダー語なども、研究テーマにしたい」と話している。

朝日新聞
2001(平成13年)7月18(水曜日)