日本語学科で日本文学作品を読む試み特別講義の様子
ダマスカス大学
渡辺由美 斎藤誠
 2002年に設立されたばかりの日本語学科においては、いわゆる「日本語授業」の他に「日本の現代社会(日本事情)」や 「日本の歴史」他、「日本文学」を教える試みがなされています。今回3年次にシリア人講師から日本文学の授業を受けたことのある4年 (3期)生12名(現在在学)を対象に週2時間、12回の授業をしました。
 授業は2部構成としました。前半約30分は、専門家が作成した「文学作品リスト」の27作品等から毎回学生持ち回りの 「自分で選んだ名作」の紹介(あらすじと解釈・感想)と、それに対する全員でのディスカッション。後半の1時間余りは夏目漱石の 「こころ」(「下」の一部約8000字分)を10回に分けて鑑賞し、学生は毎回読んだ部分の核心について解釈や感想を「今日のノート」 として提出しました。

文学授業・発表風景

 最初はとっつきにくかった「日本文学」ですが、回を追うごとに授業後にも「Kはあの時…」「『先生』の性格は…」 と亜語による議論が続き、最後には「その後のKと『先生』番外編」まで創作されるというのめり込み様?でした。 中東の学習者達は「テキストを解釈する、批判する」というようなことにはあまり馴染がない印象を受けてきましたが、 「名作紹介」でクラスメートが紹介した面白い作品に触れるうちに、「自分も解釈・批判してみよう」という気持ちが湧いてきたようです。

 当学科では、日本語教育の第一線で御活躍の先生お二人がご講義して下さるという機会がありました。 武蔵野大学大学院の佐々木瑞枝教授、東京外国語大学の宇佐美まゆみ教授です。「1日特別講義」と題した3月25日(木)午後1時、 ダマスカス大学日本語学科の教室には、日本語学科の学生だけでなく、在シリア日本国大使館から大使、文化広報担当官、 そしてダマスカス大学、アレッポ大学日本センターの日本語教師の参加もあり、70人分の席が全て埋まる盛況ぶりでした。

佐々木先生講演風景

 まずは、佐々木先生が『竹取物語』について。全国の美術館・図書館に所蔵されている貴重な挿絵を交えて、 物語とその時代背景や思想、各場面のシンボルと意義など、1つの物語から多くの深いお話を頂きました。聴衆に問いかけながら、 しかし物語の世界に聴衆をいざなう語り口はさながらゼミのようで、双方向のやりとりによって、学生からの質問も多く出ました。

 次の宇佐美先生は、『自然会話を素材としたWEB教材の開発』という題で、インターネットでの会話学習用ページ開発をご説明頂きました。 日本語の教科書にある「会話」は、台本のようで不自然に感じることがあります。ごく自然に会話している様子とどう違うのか、 というのがテーマです。シリアは日本人観光客でさえ少ないので、日本語学習者が自然な会話に接する場面は当然限られていて、 学生達はその違いに驚いた様子でした。
 後日、日本語学科講師室にある物語本が、学生達にだいぶ借りられていったのも、この講義の影響なのでしょうか。また、 日本の研究者に実際に会い、もし研究に興味を持つ人が出てくれたら、この講義を企画した甲斐があったというものです。末筆ながら、 ご講義を頂いた佐々木、宇佐美両先生と、関係者の皆さまに篤く御礼申し上げます。
http://www.jpf.go.jp/j/japanese/dispatch/voice/chukintou/syria/2010/report01.html

「国際交流基金」ウエブサイト、世界の日本語教育から


パルミラ


ウマイヤドモスク



ヒジャーズ駅



ダマスカス大学の学生たちと



ダマスカス大学講義風景

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